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LongView NO.176




目次



ツバメ

 3月の最後の週に近くの川でツバメを見かけた。かなり多い。まだ巣作りをしている段階ではないかもしれませんが、それも間近いでしょう。夏鳥であるツバメがいつごろ日本に渡ってくるのかは日本ツバメ研究会が毎年調べているそうで、関東地方には3月下旬ころから飛来が普通らしい。昨年は2月に見た記憶があったのですが、調べてみるとやはり昨年は平均より早く今年は若干遅れているらしいとのことです。よく「夏の到来を告げる」といわれるツバメですが、実際には春の終わり、ときとしてまだまだ寒中という時期に渡ってくるようです。ルートとしては、海岸から河川沿いに渡ってくるようで、人家の軒下などに巣を作って子育てを始めるのはもう少し遅れますから、感じとして夏を予感させるのは確かなようです。シジュカラなど私の知っているわずか鳥でも2月早々の寒い時期に鳴声が変わっていますから、どうも野生動物が春を感じるセンサーは人間よりかなり敏感なようです。


 こんなことが簡単に調べられるのもインターネットのおかげで、といいたいところですが、いうまでもなく、地道に研究して、それをインターネットのWebサイトとして公開してくれる人たちのいるおかげなのです。

  • ツバメのことを調べれば →■[ツバメ観察ネットワーク]
  • ホタルのことを調べれば →■[ホタルの百科事典]
  • 埼玉の山城を調べれば →■[城跡ほっつき歩き]
  • と、それぞれにおそるべき情報の集積が個人(あるいは個人の集合としての民間の団体)によって行われています。もちろん、必ず上には上があるのでしょうから、本当の研究や調査はWebサイトに載っていないこと、あるいは載っていることの奥を追求するところから始まるということを忘れてはいけません。とはいえ、これらのサイトに集められた情報だけでも膨大なもので、ひとりの個人が一生をかけるくらいの価値があるものです。感謝しながら、大変便利にこうした情報を使っている私です。




    今年も近くの公園でカタクリの花がさきました(写真)。


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    クジラについて

     先日、日本の調査捕鯨船が過激な“反捕鯨団体”から攻撃されるいう事件がありましたが、この問題はなかなか結論が出ない問題です。なぜなら単なる環境問題ではなく「鯨をとって食べるのは日本の文化」という日本側の言い分にあるように、食文化論などと大げさにいわなくても「イワシやマグロはよくてどうしてクジラはだめなんだ」という素朴な感情があるためでしょうか。


     それはともかく、この問題で日本人が団結する理由のもうひとつに「欧米人だってかつては世界の海で鯨をとりまくっていたじゃないか」という反論があります。もちろん本当のことで、この事実を端的にあらわしているのが1851年に出版されたメルヴィルの小説『白鯨』です(最近、岩波文庫から新しい翻訳が出ていますので、ご一読を)。この小説では、というより、その当時は、知性を持つやさしい生物というような鯨に対する感情はもちろんなく、凶暴な海の怪物というイメージが強かったことがわかります。もちろん、この『白鯨』は一面においては鯨に対する崇拝と畏敬の念にあふれた不思議な小説なのですが、「鯨が憎悪を持って船を襲う」ことをかなり執拗に述べています。『白鯨』が事実の反映であることを説明するためなのですが、これは、最近の反捕鯨論者の意見とは方向がちがいますが、鯨の相当な知能の高さを認めていることでは同じことです。 。


     ちなみに、ここでメルヴィルが述べている「マッコウ鯨に襲われて沈められた船」は事実としてあったことです。その真相は『復讐する海─捕鯨船エセックス号の悲劇』(ナサニエル・フィルブリック著)で詳細すぎるほどにわかります。捕鯨基地であるナンタケットから出航した捕鯨船エセックス号が鯨の襲撃により沈没。3隻のボートに乗り分かれた船員たちは、海を漂流し、ついには仲間の死体を食べることになる。このような残酷なストーリーでは『白鯨』のような叙事詩にも似た物語にはなりませんが、まさに悲劇ではあります。この本は全米図書賞を受賞したノンフィクションですので、『白鯨』とセットで読むことをお勧めします。私は図書館でみつけました。


     このように、19世紀から世界中の鯨を捕獲してきた欧米人ですが、不思議なことに鯨の肉を常食にすることはありませんでした。捕鯨の目的も鯨から良質の油をとることだけでした。そのため当時の捕鯨船には鯨肉を煮て油をとる釜がありました。この油で、ランプの灯をともし、歯車の潤滑剤としたのです。『白鯨』には鯨の肉を食べる(変わり者の)船員の話や鯨肉を食べていた時代のエピソードも出てきますから、少なくともかつては食べていた、いまも新鮮なうちは美味であることはわかっていたようですが、食べないのは多分宗教上の理由です。そして、現代の反捕鯨派の多くがヨーロッパ人であることの理由のひとつがここにあるように思います。もっとも、現代の日本人もイルカ(立派な鯨類です)はかわいい動物として親しんでいるので、これを食べることに違和感を持つ人も多いと思います。最近の欧米人の主張はこんな感じなのかもしれません。ただ、少なくとも1960年代にヨーロッパの研究者は北極の捕鯨船で鯨肉を食べていたそうですから、鯨肉食をこんなに非難するようになったのかなり最近のことのようです。


     なお、もうひとつの日本の主張である「鯨が増えすぎて海の生態系を乱している」については、疑問の声もあります。一般的に自然の生態系の中でひとつの種だけが増えすぎるということはありません。それを科学的に調べるための調査捕鯨であるという主張はわかりますが、実際には「捕鯨」ですし、それを行っているのが(財)日本鯨類研究所で、鯨の肉を売った副産物収入数十億円のほかに毎年5億円の補助金を受け取っている水産省の天下り団体であることも気がかりです。


     もうひとつ、『白鯨』ではスターバックという高級船員(一等航海士)が登場します。船長エイハブに逆らう現実派ですが、最後は同じ運命をたどります。このスターバックは、ナンタケットでは有名な家系のようですが、私たちは「スターバックスコーヒー」としてこの名前をよく知っています。そして、スターバックスコーヒーの社名の由来は「『白鯨』に出てくるコーヒー好きのスターバックという船員からつけられた」というそうなのですが(ホームページに載っているとのことですが日本版ではないようです)、『白鯨』の訳者・八木 敏雄氏もいっているように、小説の中でこのスターバックがコーヒー好きであるという記述はないのです。これはちいさな不思議です。

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