第12回 自費出版の豊かな世界 その9

根強いファンをもつ伊福部昭の音楽世界研究の成果を

 2004年5月、東京・港区のサントリーホールで開かれた日本音楽界の巨人、伊福部昭の傘寿記念コンサートで、会場では彼の多くの音楽CDが販売されましたが、その一角に2冊の書籍が並べられました。1冊は『伊福部昭・時代を超えた音楽』、もう1冊は『合本 伊福部昭 音楽家の誕生・タプカーラの彼方へ』。著者はともに木部与巴仁さんです。木部さんはプロのライターですが、個人的に20年以上にわたって伊福部昭の人と芸術の研究を続けています。『伊福部昭・時代を超えた音楽』は伊福部昭に関する3冊目にあたります。『合本 伊福部昭 音楽家の誕生・タプカーラの彼方へ』は、新潮社から出て早々に絶版となっていた本と2冊目の本を、新刊を契機に合本した決定版です。

 「ゴジラ」など多くの映画音楽作曲で知られる伊福部昭ですが、日本の土俗やアイヌ音楽に影響を受けた独特の作品もあり、伊福部昭音楽のファンは多いのですが、彼の評伝や音楽論を読む人はそれほど多くはありません。しかし、書きたいという強い意欲をもつ著者があり、文字を通してでもその奥行きを確かめたいという読者が存在する限り、出版の意義はそこに存在するのではないでしょうか。また、小部数の自費出版とはこうした場合にカを発揮するシステムともいえるではないかと思います。この2冊は小部数でありながら比較的にページ数が多いという制約があり、それに適した出版方式も工夫しました。この本は2冊とも当社での予約注文を受けましたが、その中の注文書のコメントに次のようなものがありました。

「音楽系大学に通う学生です。今、健全な日本の音楽家について書かれた本を出版されること、大変素晴らしく思います。こうした動きがあるのは大きな励みになります。」

 さっそく、コメントを著者に送りました。経済的にも身体的にも厳しい出版のなかで、すこしでも支えとなってほしかったからです。